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東京地方裁判所 昭和29年(モ)10765号 判決

申立人(債務者) 横井英樹 外一〇名

被申立人(債権者) 鏡山忠男 外八名

主文

申立人等の申立を棄却する。

申立費用は申立人等の負担とする。

事実

申立人代理人は『東京地方裁判所が、昭和二十九年(ヨ)第二、八四五号職務執行停止仮処分事件について、昭和二十九年四月六日にした「(1)  本案判決確定に至るまで、被申請人横井英樹は株式会社白木屋(本店東京都中央区日本橋通一丁目九番地二)の取締役兼代表取締役の、被申請人大宮伍三郎、同鈴木一弘、同柴崎勝男、同中村金平、同菱田光男、同清家武夫、同福永長四郎及び同田渕八郎は右会社の取締役の、被申請人中西政樹及び同両角潤は右会社の監査役の職務を夫々執行してはならない。(2)  右期間中取締役兼代表取締役の職務を行わしめるため藤沢市片瀬町西浜二千九百三十二番地弁護士有馬忠三郎、鎌倉市津二百五十六番地柄島俊輝、藤沢鵠沼市六千三百四十九番地松村善三を、監査役の職務を行わしめたるため、神奈川県中郡二宮町山西九百四十三番地弁護士若林清を、各々職務代行者に選任する」との仮処分決定のうち、柄島俊輝、松村善三を株式会社白木屋の取締役兼代表取締役の職務代行者として選任する部分を取消す。』旨、および、新たなる取締役職務代行者を選任する旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、

その理由としてつぎのとおり述べた。

「一、被申立人等は昭和二十九年四月五日東京地方裁判所に申立人等を債務者として、申立人等の申立外株式会社白木屋の取締役ならびに監査役としての職務の執行を停止し、代行者の選任を求める旨の仮処分の申請をなし、右申請に基いて同裁判所は同月六日同庁昭和二九年(ヨ)第二、八四五号職務執行停止仮処分事件として申立の趣旨記載のような仮処分決定をした。

二、しかしながら、右仮処分決定によつて株式会社白木屋の取締役兼代表取締役の職務代行者として選任された柄島俊輝、松村善三については、右仮処分決定後つぎのような事由発生し職務代行者としては不適当となるに至つた。

(1)  先ず柄島俊輝は警視庁で外国為替及び外国貿易管理法違反の疑で取調を受けた結果、右柄島は昭和二十七年九月頃株式会社白木屋のOSS営業部長として在任中、輸入品の販売成績が上らずストツクが約五億円となつて資金繰作が困難となつたので、輸入証明書を金に換えることを計画し、某銀行本店内で一万五千ポンド分の繊維品の虚偽の輸入申請書を作成し、これを日本橋通二ノ四星栄商会に譲渡し、同商会は右申請書によつて一万一千ヤールの洋服地を英国から輸入して市販し、この売上金の中から礼として現金三百八十七万円のリベートを払つた事実が判明したので柄島は株式会社白木屋とともに送検されるに至つた。

(2)  昭和二十九年三月三十一日に開催の予定であつた株式会社白木屋の第七十期定時株主総会に先だち、被申立人鏡山忠男一派のものは右総会において株式会社白木屋の多数派株主である申立人横井英樹等に右会社の経営権が移ることを恐れ、申立外山一証券株式会社より株式会社白木屋の株式七十七万四千九百株を右株式会社白木屋の計算において鏡山名義で買い入れたが、この買入代金を請求されてその支払に苦しんだ結果被申立人鏡山、同中田専二および柄島俊輝三名共謀のうえ株式会社白木屋代表取締役代行柄島俊輝名義の約束手形数通合計金額二億円を昭和二十九年五月末頃振り出し、これを関西方面において換金のうえ、前記代金の支払に充当し局面を一時糊塗せんと図つたが、右約束手形三通合計金額五千万円を金融ブローカーに詐取され、会社に重大な損害を与えるに至つた。

(3)  柄島俊輝、同松村善三の両名は被申立人鏡山と共謀のうえ、昭和二十九年四月七日代表取締役職務代行者有馬忠三郎に無断で、その名義を使用し、これと連名で株式会社白木屋の株主に対し挨拶状ならびに株式会社白木屋七十期定時株主総会経過報告なる書面を発送し、申立人横井を中傷したが、右は株式会社白木屋をめぐる被申立人鏡山一派と申立人横井等との間の紛争について中立的立場を維持すべき職務代行者としてあるまじき行為である。

三、以上いずれの点よりするも柄島および松村の両名は株式会社白木屋の取締役兼代表取締役の職務代行者たることは不適当となるに至つたので、民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十七条による事情の変更あるものとしてこれが選任を取り消し、新たなる職務代行者の選任を求めるため本件申立に及んだ。」

被申立人代理人は主文第一項同旨の判決を求め、

答弁としてつぎのとおり述べた。

「申立人等の主張事実中、被申立人等が昭和二十九年四月五日東京地方裁判所に申立人を債務者として申立人主張のような仮処分の申請をなし、右申請に基いて同月六日同裁判所は申立人主張のような仮処分決定をしたこと、柄島俊輝が昭和二十七年九月頃株式会社白木屋のOSS営業部長であつたこと、株式会社白木屋が株主に対し挨拶状および経過報告を発送したことは認めるがその他の事実は全部否認する。」

〈立証省略〉

理由

被申立人が、昭和二十九年四月五日東京地方裁判所に、申立人を債務者として申立人主張のような仮処分の申請をなし、同裁判所は同月六日右申請を容れ同庁昭和二九年(ヨ)第二、八四五号職務執行停止仮処分事件として申立人主張のような仮処分決定をしたことは当事者間に争ない。

申立人等は右仮処分決定によつて申立外株式会社白木屋の取締役兼代表取締役として選任された柄島俊輝、松村善三について、仮処分決定後その主張のような事情が発生したことを理由として右仮処分決定のうち、右柄島、松村の職務代行者としての選任部分のみの取消を求め新たなる代行者の選任を求めるのであるが、

元来株式会社の取締役、監査役等の職務の執行を停止し、その代行者を選任する仮処分をなす場合において、いかなる者を職務代行者として選任するかは一に裁判所の自由なる裁量に任されているのであつて、職務代行者として特定人を選任すべきことを求める権利は他の何人にも認められていず、さらにその結果として、裁判所は一旦ある者を職務代行者として選任した後においても、その者を不適当と認めるときは、職権でその選任を取り消し、適当と認めるものを新たに選任できるのであり、この点についてもまた何人も裁判所に対し職務代行者の変更を要求する権利を有していないのであるから、本件仮処分決定によつて株式会社白木屋の取締役の職務代行者として選任された柄島俊輝、松村善三について、仮処分決定後たとえ申立人等主張のような事情が発生し、職務代行者たるべきことが不適法となつたとしても、これを民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十七条による事情変更あるものとして、右仮処分決定の中右両名の職務代行者としての選任部分のみの取消を求め新たなる代行者の選任を求める権利は、右仮処分の債務者たる申立人等にはないものといわざるを得ない。而して申立人等主張の事実は、よしそれが真実であるとしても、右仮処分決定自体を取り消すべき事情の変更であるとはいえないから、申立人等主張の右事実の存否の判断を為すを要せず、主張自体失当としてこれを棄却することとし、申立費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 入江一郎 唐松寛 高林克己)

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